池江璃花子が競泳日本代表の主将に就任。白血病からの復活を経て再び国際舞台へ。彼女のリーダーシップと生きざまが、34人の代表チームに新たな風を吹き込む。数字だけでは語れない彼女の物語と、静かな決意の裏側に迫ります。
池江璃花子
競泳日本代表主将に就任
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池江璃花子が競泳日本代表主将に就任──静かな波紋が、世界を動かす
どうして彼女は「主将」という役割を託されたのか?
誰かが言った。「リーダーとは、誰よりも前に立つ人じゃない。誰よりも深く、静かにそこにいる人だ」と。池江選手に主将を任せたいという気持ちは、まさにその言葉に集約される。彼女は、チームを見下ろすのではなく、隣に並んで歩いてくれる。だからこそ、背中を追いたくなるのだ。
それは、数字や肩書きだけでは説明できない種類の出来事だった。
池江璃花子選手が、今夏シンガポールで開催される水泳世界選手権に向けて、日本代表の主将に選ばれた。その選出理由には、成績だけでは語れない「物語」があった。
彼女は、三度のオリンピック代表入りを果たし、11の日本記録を持つ。だが、真に評価されたのは、2019年に白血病を患い、それを乗り越え、再び泳ぎ始めたその生き方だった。
倉澤代表監督が「適任」と言い切ったその言葉には、彼女の歩んできた年月の重みが込められている。
池江璃花子が主将になるまで
[2019年2月]
白血病を発症
↓
[2019年夏]
造血幹細胞移植に成功
↓
[2020年]
プール練習再開(復帰第一歩)
↓
[2021年]
東京五輪出場(完全復帰の証明)
↓
[2024年]
完全寛解を報告/記録更新も続く
↓
[2025年3月]
日本選手権で代表内定・4連覇
↓
[2025年3月末]
競泳日本代表 主将に就任
長いトンネルと、ひとすじの光の話
ある日、世界が突然モノクロになってしまうことがある。
2019年、池江選手は白血病と診断され、すべてが止まった。抗がん剤、合併症、移植手術。死にたいと思うほどの痛みが彼女を襲った。だが彼女は、自分にこう言い続けた。
「大丈夫、いつか終わる」
その言葉だけを頼りに、彼女は長いトンネルを泳いだ。そして、406日ぶりにプールに戻ったとき、彼女の中で何かが変わっていた。
主将としてのリーダー像──静かに火を灯す人
主将候補3名の特徴比較
項目 | 池江璃花子 | 松下知之 | 渡辺一平 |
---|---|---|---|
主な競技種目 | バタフライ・自由形 | 個人メドレー | 平泳ぎ |
リーダー経験 | 日大女子競泳部主将 | 副将歴あり | 副将歴あり |
メンタルの強さ | 白血病克服による精神的強さ | 冷静沈着なタイプ | 明るくチームを鼓舞するタイプ |
チームへの影響力 | 回復の象徴として絶大 | 落ち着いた支え役 | 雰囲気づくりの潤滑油 |
コミュニケーション力 | 優しく丁寧/聞き手に回ることが多い | 的確な指示・助言が得意 | 明るく場を盛り上げる |
池江選手が率いる日本代表チームは、男女合わせて34名。彼女は大声で引っ張るタイプではない。むしろ、静かに存在することで周囲の心に火を灯すような、そんなリーダーだ。
日大の女子競泳部でも主将を務め、練習後には自然と笑いを交えながらチームの輪を作っていた。今回の代表チームでも、松下知之・渡辺一平の両副将とともに、穏やかに空気を整えていくのだろう。
記録の奥にある物語──数字では測れない価値
池江選手は、長水路と短水路を合わせて11の日本記録を持つ。2025年3月の日本選手権でも、50mバタフライで4連覇を達成した。
記録とは、時間の中で泳いだ証だ。そして、その背後には数えきれない日々の葛藤と選択がある。
池江璃花子が主将に選ばれたことで、「なぜ彼女なのか?」と感じた読者も少なくないだろう。
近年の大会成績だけを見れば、もっと若く勢いのある選手がリーダーに抜擢されても不思議ではない。だが、リーダーとは「速さ」や「成績」だけで選ばれるものではない。
池江の背中が語るもの、それは“乗り越えた者にしか持てない静かな説得力”だ。
病気を経験し、一度は競技人生を諦めかけた彼女が、それでも泳ぎ続けている。
その姿勢は、タイムでは測れない「影響力」としてチームに作用する。リーダーとしての役割は、成績を残すことだけではない。
「大丈夫、きっと戻れる」――そう信じさせてくれる誰かが、プールサイドに立っていることの価値。それを改めて考えさせられる就任である。
2028年へ向けた、静かな決意
池江璃花子選手は、2028年ロサンゼルス五輪を自身の競技人生の“ひとつの終着点”と考えているという。だが、それは終わりではなく、次なる波の始まりでもある。
彼女の後ろ姿を見て、今、多くの若い選手が育ちつつある。その視線の中には、リーダーとしての彼女だけでなく、「一度すべてを失っても戻ってこられる」その存在への敬意がある。
病気を越え、数字を越え、生き方そのもので人を動かす。池江璃花子という存在は、そういう意味で、競泳という枠を越えた“物語”なのかもしれない。
FAQ:池江璃花子にまつわる3つのこと
Q1. 今の健康状態は?
→ 2024年9月に完全寛解を報告。今も安定して競技を続けています。
Q2. 主将経験は過去にも?
→ 代表チームでは初めて。日大女子競泳部では主将経験あり。
Q3. 次の大会は?
→ 2025年の世界水泳選手権(シンガポール)。女子バタフライ2種目で出場予定。
なぜ、彼女の背中は人を動かすのか?
誰かを“主将”に任命するということは、その人の実績や肩書きを確認するだけでは済まない。むしろ、目には見えない「何か」に賭ける決断である。
池江璃花子の背中には、絶望と再生の痕跡が刻まれている。
彼女がただ泳いでいるだけで、人は勇気づけられる。それは、病を克服したという一行のニュースでは伝えきれない、“圧倒的な沈黙”のような存在感だ。
彼女は大声を上げて導かない。誰かに寄り添うように、隣を静かに泳ぐ。
その姿を見た誰かが、「自分ももう一度立ち上がれるかもしれない」と思う。
時に、リーダーシップとは、言葉ではなく“在り方”そのものなのだ。
池江の背中には、他者の意志を目覚めさせる磁力がある。
それは希望の形をした、非常に静かで深い力である。