東京都区部の家賃が30年ぶりに大幅上昇。2025年3月のCPIで民営家賃が前年比+1.1%を記録し、「岩盤」と言われた安定価格が崩れた。背景には建設費や分譲価格の高騰、光熱費転嫁があり、学生・単身者・家族層の暮らしに影響が広がっている。都市生活は今、岐路に立っている。
家賃“岩盤”が崩壊
30年ぶり上昇
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✅ 見出し | 要点 |
---|---|
なぜ今家賃が話題に? | 東京都区部の家賃が30年ぶりに急上昇 |
CPIとの関係は? | 岩盤と言われた家賃が+1.1%上昇 |
背景に何がある? | 建設費・分譲価格・リフォーム代の影響 |
誰に影響? | 単身者・学生・家族層すべてに影響拡大 |
今後の懸念は? | 消費低迷・家計圧迫・都市生活への再考 |
東京で暮らすという“あたりまえ”が、今や静かに崩れ始めている。
なぜ「岩盤」と言われた家賃が30年ぶりに動いたのか?
2025年3月、東京都区部の消費者物価指数(CPI)で「民営家賃」が前年比1.1%の上昇を記録した。この数値は1994年10月以来、実に30年5か月ぶりの高い伸び率であり、これまで「物価の岩盤」とまで呼ばれ、長期間ほぼ変動のなかった家賃の構造に変化が生じたことを意味している。
家賃は日々の食料や日用品とは異なり、一度契約すると一定期間は固定される特性を持つ。そのため、CPI上では影響が現れにくいとされてきた。だが今、静かに上昇が始まり、生活者の可処分所得を圧迫し始めている。
【過去との家賃上昇比較】
項目 | 過去(約5年前) | 現在(2025年) |
東京都区部CPI家賃上昇率 | ±0%付近 | +1.1% |
文京区ワンルーム相場 | 約12万円 | 約14万円 |
東京23区単身用物件 | 基準値 | +7.6% |
東京23区家族向け物件 | 基準値 | +26.1% |
家賃上昇の背景にある“複合コスト”
建設費と金利の高騰が直撃
新築物件の家賃設定には建設コストが大きく影響する。資材価格や人件費の高騰、さらには借入金利の上昇により、施工側が高めの賃料を提示せざるを得ない状況が続いている。
分譲価格高騰と賃貸需要のねじれ現象
2024年度の首都圏新築マンションの平均価格は8135万円、東京都区部に限れば1億1632万円と、2年連続で1億円超えを記録した。この水準では購入を諦め、賃貸を選択する層が急増し、特にファミリー向け物件で需給の偏りが家賃上昇を後押ししている。
光熱費・リフォーム代の転嫁
築年数を重ねた物件でも、リフォーム費用や共用部分の電気代などが上昇し、オーナーがそれらを家賃に転嫁する傾向が強まっている。特に都市部ではこの動きが顕著だ。
【家賃上昇の因果構造】
建設費・金利高騰 → 新築家賃の上昇 → 分譲購入困難 → 賃貸需要増加 → 築古物件にも波及 → 家賃全体が上昇
どの地域・世帯に影響が出ているのか?
【要約表】
✅ 見出し | 要点 |
なぜ30年ぶりの家賃上昇か? | CPI1.1%増、バブル期以来の伸び |
家賃上昇の主因とは? | 建設費・分譲価格・光熱費が連動 |
影響を受ける層は? | 学生・単身者・家族層すべてに広がる |
東京以外も? | 大阪・名古屋・福岡などにも波及傾向 |
今後の不安は? | 値上げ継続+消費低迷の可能性 |
続きでは、さらに“誰が”“どこで”どれほど苦しんでいるかが明らかになる。
東大生の「家賃断念」が象徴する現実
今年春、四国から上京した東大院生の男性は、本郷キャンパス周辺での住居探しに苦戦した。文京区内のワンルーム相場は14万円前後と高騰し、結果的に足立区へと住まいを移さざるを得なかった。「払える家賃には限界があった」と語る彼の声は、若年層の現実を物語っている。
単身者・家族向けともに広がる負担
不動産サービス大手によれば、東京23区における30平米以下の物件は5年間で7.6%上昇。50~70平米の家族向けは26.1%もの値上がりを見せている。単身・家族のいずれの層にも影響が広がっているのが現状だ。
東京以外の都市にも拡大中
家賃の上昇は東京だけの現象ではない。大阪、名古屋、福岡などの大都市でも、個人・家族向け物件ともに賃料の上昇傾向が確認されている。ただし、地域別の細かな上昇率は調査中とされている。
今後も家賃は上がり続けるのか?
不動産業者・オーナーの値上げ意識
大東建託は130万戸中50万戸で値上げを通知済みで、そのうち8割が了承済みという。所有物件のオーナーからも「物価上昇に合わせた賃料アップは自然」という声が上がっている。
家賃は家計支出の“最後の岩”
家賃は支出の中でも最も固定性が高く、食費などとは異なり削りにくい。ゆえに、上昇がそのまま家計圧迫へと直結しやすい。物価上昇の波が“岩盤”にまで届いた今、暮らし全体の構造が揺らいでいるとも言える。
消費への影響と可処分所得の低下懸念
三菱UFJ信託銀行の船窪芳和氏は「都市部では今後さらに上昇幅が拡大する可能性があり、消費へのマイナス影響が避けられない」と警鐘を鳴らす。収入が増えない中で支出が増える今、家賃の上昇は家計の自由度を削っている。
家賃が語る「東京という幻想」
家賃という数字は、都市の理想と現実のあいだにある“静かな悲鳴”かもしれない。
東京に住むことが、いつから“覚悟”を伴う選択になったのか。家賃の上昇は、単なる経済の話ではない。それは、夢を見て上京した若者、家族を守るために選んだ住まい、都会で暮らすという幻想——それら全てに対する問いかけだ。
今この瞬間も、ひとりの若者が、地元を離れて東京に向かう。そのとき、彼は知っているのだろうか?
この家賃には、過去の誰かの「夢の跡」が、上乗せされていることを。