広島県廿日市市宮島口の老舗もみじまんじゅう店「おきな堂」が、2025年5月末に創業60年の歴史を閉じる。観光客過去最多にもかかわらず閉店を決めた背景には、猛暑による品質リスク、物価高、人手不足といった課題があった。ふわふわの手作り生地にこだわり続けた店の歩みと、時代の変化に揺れる観光地経営の現実に迫る。
老舗もみじ饅頭店
「おきな堂」閉店へ
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項目 | 要点まとめ |
---|---|
✅ 創業と特徴 | 1965年創業、業界初のクリーム入り開発 |
✅ 観光客増 | 宮島観光客数が過去最多に |
✅ 閉店理由 | 猛暑による品質維持困難、衛生リスク懸念 |
✅ 経営環境悪化 | 物価高、人手不足、価格維持の限界 |
広島県廿日市市宮島口の老舗もみじまんじゅう店「おきな堂」が、2025年5月末に創業60年の歴史に幕を下ろす。観光客が過去最多を記録する中、なぜ人気店が閉店を決断したのか。ふわふわの生地と手作りにこだわり抜いた伝統、そして時代の波に直面したその理由に迫る。
「おきな堂」はなぜ閉店を決断したのか?
観光客増にもかかわらず?
宮島を訪れる観光客数は、2024年に過去最多を記録。インバウンド需要も急拡大し、宮島口のおきな堂にも多くの客が押し寄せた。しかし、にぎわいとは裏腹に、経営には大きなプレッシャーがのしかかっていた。
「たくさんの方に来ていただけるのはありがたいが、その分、品質管理のハードルも上がった」と社長の木谷憲昭さん(77)は語る。急増する外国人客への説明の難しさも不安材料だった。
猛暑と生菓子特有のリスクとは?
おきな堂のもみじまんじゅうは、通常よりも水分量の多いスポンジ生地が特徴。そのため消費期限は3日間と短く、猛暑による品質劣化リスクが深刻化した。
「涼しい場所で保管してください」との注意シールを貼ったが、急ぎ足の観光客すべてに伝えるのは容易ではない。「食中毒だけは絶対に出したくない」という強い信念が、閉店という苦渋の決断を後押しした。
ふわふわ生地と短い命
おきな堂のもみじまんじゅうは、洋菓子の技術を取り入れた独自のふわふわ食感が特徴。生地もあんこも毎日手作りされ、できたてならではの風味が命だ。しかし、その柔らかさゆえに品質保持が難しく、気温の上昇が大きなリスクとなった。
スポンジ状生地で高湿度
消費期限は最長でも3日間
夏場の高温下では、販売後の管理が極めて困難
項目 | 創業当時(1965年) | 現在(2025年) |
---|---|---|
観光客層 | 国内中心、ゆっくり滞在型 | インバウンド急増、短時間滞在型 |
物価 | 安定 | 物価高騰 |
品質管理 | 常温でも比較的安心 | 猛暑・高温リスク増大 |
働き手 | 地元若手が多かった | 深刻な人手不足 |
なぜ「おきな堂」は特別だったのか?
クリーム入りもみじまんじゅうの先駆者
1984年、おきな堂は業界に先駆けて「クリーム入りもみじまんじゅう」を発売した。当時は珍しかった洋風アレンジに挑み、新たなファン層を開拓した。
「生地のふわふわ感にクリームが絶妙に合う」と口コミで人気が広がり、地元民にも観光客にも親しまれた。今では多くの店が追随しているが、先駆者としての存在感は際立っていた。
変わらない手作りへのこだわり
手間を惜しまない手作業。生地も、あんも、すべて店内で仕込み、焼きたてを提供するスタイルを60年間守り続けた。
「機械化すれば楽になったかもしれない。でも、それでは味が変わってしまう」。木谷さんの言葉には、揺るぎない職人の矜持がにじむ。
【おきな堂のもみじまんじゅう製造工程】
手作り生地の仕込み
あん・クリームを包み込む
型に流し込み、丁寧に焼成
個別包装、販売
品質管理と温度チェック
項目 | 要点まとめ |
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✅ 過去最多の観光客 | にもかかわらず経営は厳しさ増 |
✅ 衛生リスク回避 | 食中毒ゼロを貫くための苦渋の決断 |
✅ 伝統技術の重み | 機械に頼らない手作り主義 |
✅ 地域と共に歩んだ60年 | 地元と観光客に愛された老舗 |
👉後半では、「おきな堂の閉店が示す時代の変化」と「観光地経営の新たな課題」について掘り下げます。
これからの宮島と「おきな堂」の思い出
地元民と観光客に愛された60年
「おきな堂」が生み出したもみじまんじゅうは、観光客だけでなく、地元住民にも広く愛された。
日常のおやつに、祝い事に、手土産に。宮島口の小さな店には、たくさんの思い出が積み重なっている。
閉店を知った常連客からは「寂しい」「あの味に助けられた」と惜しむ声が相次いだ。
「また買いに行きたい」という願いが、5月末までの短い時間に詰まっている。
観光地経営の新たな課題とは?
一見、にぎわう観光地。だが、裏側では人手不足とコスト上昇という深刻な問題が積み重なっている。
おきな堂のような個人店にとって、インバウンド対応や安全管理、物価高騰への対策は、容易ではなかった。
働き手不足 → 説明対応・製造維持が困難に
物価上昇 → 商品価格に反映できず、利益圧迫
観光客増加 → 品質管理リスクの増大
観光地経営は、「人が来れば儲かる」時代から、「持続可能な仕組みをどう築くか」へと、確実に転換を迫られている。
観光地ビジネスの次のステージ
かつての観光モデルは、客数と売上が比例していた。だが現代では、
「多忙=疲弊」「集客=コスト増」という矛盾に直面する。
サステナブル経営への転換
少人数でも維持できる運営体制
地域全体で支える仕組みづくり
これらが、これからの宮島にとって、避けて通れないテーマになりつつある。
ここで注目したいのは、「おきな堂」の閉店が単なる1店の物語ではないということです。
観光地ビジネスの持続可能性とは何か、私たちも一緒に考えるタイミングなのかもしれません。
項目 | 要点まとめ |
---|---|
✅ 歴史と伝統 | 60年守り続けた手作りの味 |
✅ 変化の波 | 観光客増と品質維持のジレンマ |
✅ 持続可能性 | 人手不足と物価高に立ち向かえず |
✅ 記憶に残る存在 | 地元民と観光客に愛された老舗 |
👉「観光地とは、誰のために、どうあるべきなのか?」――この問いを胸に、宮島を歩いてみたい。
「生地の柔らかさと、時代の硬さ」
柔らかい生地に包まれたあんこのように、
人々は、しなやかに時代の変化を受け止めることができるだろうか。
かつて「安くておいしい」を支えた職人たちが、
静かに店を閉じる時、それは敗北ではない。
変わりゆく社会に、最後まで抵抗した証だ。
宮島口の駅に降り立つ人々は、もうあの香ばしい匂いを感じることはできない。
だが、それは消えたのではない。
どこかで、別の形で、私たちの中に生き続けている。
「また来たい」。
その思いこそが、唯一、消えないものだと信じたい。