2025年4月26日、SNS上で「東京湾北部で巨大地震が起きる」とする沖縄在住の霊能力者(自称)が予言した「426地震説」が急拡散。科学者が「地震予知は不可能」と断言する中、なぜ人々は不安に駆られ、行動を変えたのか。あいまいな情報ほど拡散する「噂の法則」と、虚偽情報が真実よりも6倍速く伝わるSNS時代の危うさを読み解く。
『426地震説』
なぜ拡散された?
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2025年4月26日、SNSを中心に「東京湾北部で巨大地震が発生する」という予言が広まり、社会に一時的な不安をもたらした。沖縄在住の霊能力者(自称)によるものとされ、詳細なシナリオまで語られたこの予言。しかし、結果的に地震は起きなかった。科学的根拠がないとされるこのような“大地震予言”が、なぜ毎回拡散し、多くの人を巻き込むのか。その背景には、人間の心理構造と噂の広がる「公式」が潜んでいた。
続いて、なぜ「426地震説」は拡散したのかを詳しく掘り下げます
なぜ「426地震説」は拡散したのか?
予言内容とその衝撃は?
沖縄在住の霊能力者(自称)が、4月26日午後2時58分に「東京湾北部でマグニチュード8.3、震度6以上」の巨大地震が発生すると予言した。高層ビルの崩壊、地下鉄の浸水、30メートル超の津波、93分後の完全暗黒という詳細なストーリーがSNSで拡散された。その衝撃は大きく、動画サイトには関連動画が次々投稿され、SNSでは「東京行きを控える」「非常食を備蓄する」といった声も多く見られた。
実際に起きた社会的反応とは?
予言を受け、小学生たちが防災グッズを自宅で確認したり、机の下に素早く隠れる遊びが流行するなど、行動面にも影響が出た。さらに、外国人観光客の中には、渡航を取りやめるケースも報告された。実際には、4月26日に地震は発生せず、今回の予言も「当たらなかった過去のデマ」と同様の結果となった。
SNSが生む「祭り現象」
デマ拡散の背景には、「皆でワクワクしたい」という集団心理があると指摘される。日本大学の福田充教授は「予言が毎回外れるにもかかわらず、参加型の祭りのように盛り上がる傾向がある」と分析。特にSNS時代では、投稿が“祭りの火種”となり、拡散スピードもかつてないほど速くなっている。
不安ではなく“盛り上がり”が動機となる拡散
SNS特有の匿名性と承認欲求が拍車をかける
共通体験が「一体感」を生み、さらに噂が広がる
要素 | 過去のデマ | 今回の「426地震説」 |
---|---|---|
予言内容のあいまいさ | 日時や場所の明示なし | 日時・場所・規模まで詳細記述 |
拡散メディア | 口コミ・掲示板中心 | SNS・動画サイト |
社会的影響 | 軽微(主に話題止まり) | 行動変化・旅行キャンセル発生 |
この後、噂の心理構造とデマへの耐性強化についてさらに掘り下げます。
「科学的に地震予知は不可能」と専門家が断言する理由は?
地震予知に科学的根拠はあるのか?
政府は、首都直下地震について30年以内に発生確率70%と発表しているが、それは過去の発生周期データに基づく確率論に過ぎない。福田充教授や地震研究所の専門家は「数日から数カ月単位で地震発生時期を特定することは不可能」と断言している。
地震発生予測には、ポアソン分布と呼ばれる数学モデルが使われるが、これは「平均的な発生頻度」に基づくものであり、「明日揺れる」といった短期予測には使えない。
✅政府公式発表
首都直下地震に関する「30年以内に70%」という予測は、政府地震調査委員会によるもので、最新発表は「2024年版地震調査研究推進本部報告」に基づく。
それでも「兆候が分かる」可能性は?
日本地震予知学会の長尾年恭会長は、「マグニチュード8級地震発生の数十分前に特有の現象が観測できる可能性がある」とし、今後10年以内に短期予測の精度が飛躍的に高まる可能性を示唆している。しかし、現在の技術では、個別予言を信用できる段階には至っていない。
未来の地震予知に向けた取り組み
現在、AIと衛星データを活用した「地震直前予測」の研究が進められている。プレート境界の歪みや電磁波異常を検知し、数十分前にアラートを出す技術が模索されているが、まだ実用化には至っていない。
直前予測の有望性は高まっている
だが現状の予言は「科学」ではなく「占い」に近い
正確な防災には、日常的な備えが最も重要
【「地震デマ拡散」と「科学的検証」の違い】
一方で──
地震研究者による確率論
↓(統計・歴史データ分析)定期的な防災提言
↓科学的な備え推進
あいまいなデマほど広がる「噂の公式」とは?
「噂の法則」とは何か?
アメリカの心理学者オルポートとポストマンは1952年、「噂の法則(Rumor ≒ Importance × Ambiguity)」を提唱した。つまり「重要な内容」であり「不確かな内容」であればあるほど、噂は拡散しやすいというものだ。
今回の「426地震説」も、「首都直下型地震」という極めて重要なテーマに対して、霊能力者という曖昧な出所が掛け合わされたことで、爆発的に広まった。
✅オルポート&ポストマン「デマの心理学」
1952年出版の原典では、「デマの拡散公式(重要性×あいまいさ)」が初めて示されたが、現代SNS環境ではさらに拡張解釈がされている(例:拡散速度に影響する感情軸など)。
虚偽情報の拡散速度は?
MITの研究によると、Twitter(現X)上では「正しい情報」よりも「誤情報」のほうが約6倍の速さで拡散されるという。つまり、ウソのほうが人々の感情を動かし、行動を促す力が強いという実態がある。
「不安は、最大の伝染病だ」
人は、わかりやすい敵よりも、見えない不安に脆い。予言、陰謀論、霊感商法…。その源にあるのは、「もしも」に怯える心だ。不安を撒く者は、恐怖を武器にする。だが、私たちは気づかなければならない。本当の危機は「騙されること」ではない。恐怖に屈して、自分の判断を手放すことだ。