2025年4月、NEXCO中日本は東名高速などで発生したETCシステム障害に対し、約96万台分・13億円相当の通行料金を「全額免除」する異例の対応を発表。さらに、すでに課金された利用者にはクオカードなどで金券還元を行う。この判断は公平性と信頼回復を優先した結果であり、今後の制度運営に波紋を広げそうだ。
ETC障害で96万台
13億円免除
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ETC障害で13億円分の通行料を請求せず
NEXCO中日本「全額還元」の背景と波紋
なぜETCの料金が免除されたのか?
2025年4月6日、NEXCO中日本管内の東名高速道路など106カ所の料金所で、ETCの大規模なシステム障害が発生した。ETCゲートは機能せず、多くの車両が料金未課金のまま通過。通常であれば後日請求となるが、同社は最終的に「料金の全額免除」という異例の措置を発表した。
その理由は明快だ。通行車両はおよそ96万台。うち一部は正常に課金がされていた一方、障害で記録が途切れているケースも多数。これらを精査して個別請求するには膨大なコストと混乱が伴い、「誰に、いくら請求すべきか」の公平性が崩れるリスクが極めて高かった。
【ETC障害対応の流れ】
4月6日:ETCゲートで障害発生
NEXCO中日本が状況を調査
一部通行分の課金不可が判明
後日精算を案内するも混乱発生
社会的混乱回避を優先し「全額免除」へ
支払い済み利用者にも還元を決定
NEXCO中日本の縄田正社長は記者会見で「不公平感の解消と、混乱への謝罪のため」と語り、13億円に及ぶ通行料の請求を放棄した。
課金済みの人への還元はどうなる?
障害の時間帯にもかかわらず正常に課金された車両も存在する。これに対しNEXCO中日本は、「損をした」と感じる利用者の声に応えるべく、クオカードなどの金券を送付して補償する方針を示した。
対象となるのは主にETCマイレージに登録済みの個人利用者。金額は500円相当が中心とされ、郵送での対応が進められている。一方で、法人契約者や未登録者については、個別に申請手続きが必要となる場合がある。
SNSの声と制度上の課題
ETCマイレージ未登録者の間では「自分も対象なのか分からない」という声が相次ぎ、対応の不透明さを指摘するコメントがSNS上に複数投稿された。こうした意見は“公平性”の軸で制度のあり方を見直す契機ともなっている。
Yahooコメントでは「説明不足」との投稿が多数
Twitter上では「誠意ある対応」と評価する意見もあり
一律金額による還元は“気持ちの象徴”との受け取り方も広がる
比較項目 | 通常のETCエラー | 今回のETC障害 |
---|---|---|
請求処理 | 後日請求または精算案内 | 全額免除 |
課金済み対応 | 原則対応なし | クオカードなどで金券還元 |
対象者の定義 | 明確に個別判定 | 一律「障害時間帯通行者」 |
世論反応 | 苦情・不満の投稿が目立つ | 「誠意ある判断」と一定の評価も |
今後、ETC制度やシステムは変わるのか?
今回の対応が「前例」となることには慎重な見方もある。今後、類似の障害が発生した際、「また無料になるのでは?」という期待が生まれれば、制度の持続性そのものが損なわれるおそれがある。
見出し | 要点 |
---|---|
✅ 通行料免除の背景 | データ不完全と特定困難が障害対応の核心 |
✅ 還元制度の評価 | クオカードによる「形式的公平」が一定支持 |
✅ 課題点 | 登録有無で扱いが分かれ、制度格差が露呈 |
✅ 次の焦点 | 再発防止と制度設計の見直しが問われる |
一方で、NEXCO中日本は今回の教訓を受け、障害発生時の緊急対応手順やマイレージ制度の補完設計など、「再発防止」と「制度の柔軟化」を進めていくとしている。
制度は“誤作動”よりも“誤解”に脆い。今回の対応が「損した」「得した」といった印象の差を生まないよう、誰もが納得できる基準設計と情報公開が今後の焦点になる。
企業が謝罪する。それは“損失の承認”ではなく、“信頼の回復”を買う行為だ。
13億円は安くない。しかし、信頼を失うコストの方がはるかに高い。
この判断が一部から「やりすぎだ」と言われても、それでもなお、“請求しない勇気”には哲学があった。
それは、「制度は人のためにある」という当たり前の思想が、ようやく表面に出てきた証かもしれない。