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退職日に“ファイル削除”裁判 半導体企業が元社員に損害請求

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半導体企業を退職した元社員が、退職日に自作プログラム「cleaner.bat」を実行し、共有サーバ内の232フォルダを削除──。徳島地裁はその行為を不法行為と認定し、577万円の損害賠償を命じた。一方、企業側の給与返還請求は棄却された。削除されたのは業務成果だったのか?今後の情報管理体制に求められる課題とは。

 

 

 

退職日に
“ファイル削除”裁判

 

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退職日に自作のプログラムを使って会社のファイルを削除──。2021年、青色半導体レーザー分野で知られる企業で発生した事件が、2025年5月、裁判所の文書公開によりX上で大きな注目を集めている。社員による“デジタル報復”とも取られかねない行為に、徳島地裁はどのような判断を下したのか。そして企業側の損害額とは?

✅ 見出し▶ 要点
被告が退職日に削除を実行自作のバッチファイルを使い、退職日に会社のファイルを消去した。
削除内容は業務成果ファイル実験データや操作手順書など、232フォルダ分の業務成果が対象だった。
原告が2581万円の損害と主張再開発費や給与相当額を含めた損害として、元社員らに賠償請求を行った。
地裁が577万円の賠償を命じた削除されたデータの財産的価値が認められ、一部損害賠償が認定された。

なぜ“退職日データ削除”は裁判になったのか?

削除されたのはどんなデータだったのか?

2021年7月31日、ある半導体企業を退職した元従業員Aが、退職日にあわせて「cleaner.bat」と名づけたファイル削除プログラムを実行させた。削除されたのは、社内共有PC上の232フォルダに及ぶ業務ファイル──そこには実験装置の操作手順書や開発中の資料、各種実験データなど、企業にとっての重要な知的成果が含まれていた。

このプログラムは、最終出社日を前に自宅PCから会社の共有PCへリモート接続することでセットされ、指定された日時に自動的に起動するよう設計されていた。いわば“退職日爆弾”ともいえる手法であり、実際に削除が実行されたのは、被告が会社との雇用関係を完全に解消したその日だった。

元社員の言い分とは何だったのか?

被告Aは一貫して「引継ぎ不要とされたファイルのみを削除した」と主張している。たしかに一部のファイルについては、上司から「引継ぎ対象外」と通達されていた記録があった。また削除したソフトウェア関連のファイルも、商用利用が禁じられている開発環境で作成したもので、「原告企業がそのまま使えば法的リスクがある」との主張もなされた。

これにより、「削除したことが企業の利益を損ねたとはいえない」とする論理で防戦した形だ。しかし実際に削除されたデータは、在職中に被告が作成した業務成果物であることに争いはなく、それが企業の財産か否かが裁判の大きな争点となった。


📊 原告と被告の主張の違い

要素原告企業の主張被告Aの主張
削除行為の意図故意かつ不正な報復行為不要ファイルを整理しただけ
削除した内容ほぼすべての業務成果物引継ぎ不要とされた部分+商用利用NGのファイル
損害の範囲再開発費・給与分を含む総額2581万円の損害法的には利益を侵害していない
法的な根拠不法行為および身元保証責任に基づく損害賠償請求正当な判断と実行だったため、違法性なし

🔸企業の情報管理体制は万全か?

退職者によるデータ削除リスクは、いまやあらゆる業種で顕在化している。とくに専門職や開発職など、知的財産に直結する分野では、従業員個人が持つ情報の重みが極めて大きい。

本件のように、業務成果物の保存・共有に対する社内ルールが曖昧なままだと、退職時に「これは私の成果物だ」と誤認して削除するケースも起こり得る。企業側は、退職プロセスの中でデータ資産の明確化と権利関係の可視化を徹底すべきだろう。

  • 引継ぎ範囲を明文化した文書化ルールの必要性

  • 退職時チェックリストに「データ削除禁止」の明記

  • IT管理部門と法務部門の連携によるPC監視・ログ管理の強化

裁判所はどんな判断を下したのか?

徳島地裁の認定ポイントとは?

徳島地方裁判所は、削除されたファイルが企業の共有サーバ内に保存されていた点に着目した。裁判所は「その性質上、各ファイルに関する利益は、原告企業の法律上保護されるべき利益である」と明確に断じた。そして被告Aの行為は、退職者としての誠実義務を逸脱した“故意の削除”であると認定し、不法行為が成立すると判断した。

さらに注目されたのは、損害賠償の認定額だ。原告側は再開発費や給与相当額を含め2581万円余の損害を訴えたが、地裁はその大半を退け、実質的に認めたのはファイル復旧や再構築に要する費用相当の577万4212円のみだった。

給与返還請求が却下された理由とは?

裁判所は、企業が被告に支払った給与や賞与の額について「労務の提供が実際に行われていた限り、その対価としての給与が損害であるとはいえない」との明快な論拠を示した。つまり、たとえ削除という結果があったとしても、在職中の報酬は正当なものであり返還対象にはならないという判断だ。

この点は、企業が社員の行為に失望し「給与まで返してほしい」と考えたくなる感情と、法の線引きとの明確な乖離を示している。


🔁 データ削除から判決までの流れ

  1. 被告が退職日を指定し、cleaner.batをPCに仕込む

  2. 2021年7月31日、ファイル自動削除が実行

  3. 原告が損害を主張し、民事訴訟を提起

  4. 地裁が削除の故意性と不法性を認定

  5. 損害額577万円のみ認容、給与請求は棄却

✅ 判決の焦点▶ 要点
削除の故意性が認定されたclean.batによる削除は計画的であり、不法行為が成立すると判断。
削除ファイルは法的保護の対象共有サーバ上にあった業務成果物は企業の法的利益と認定された。
請求の一部のみが認められた再開発費のみ認容、給与相当額の損害賠償請求は却下された。
賠償責任が家族にも及んだ身元保証契約に基づき、妻・母も連帯責任を負う判決が下された。

🔸リモートアクセスの落とし穴とは?

被告がファイルを削除したのは、自宅から会社PCへリモート接続するという“盲点”を突いた手口だった。物理的な退職処理が終わっていても、アカウントのアクセス権限が残っていれば、こうしたリスクは常に潜んでいる。

中小企業などでは「最終出社日=業務終了」と認識しがちだが、実際の危険はそこから始まる。IT部門によるアカウント停止や、接続履歴の自動ログ保存、デバイス管理ポリシーの徹底など、法的リスクを未然に防ぐ制度設計が急務となっている。

  • リモートアクセス権の即日無効化ルールの明文化

  • アカウント削除・端末回収を法務とITの共同タスクに

  • ログ監査ツール導入による証拠確保体制の整備

この判決は「自分の作ったもの=自分の財産」と思いがちな読者に、業務成果の所有権とは何かを問いかける内容でもある。あなたが退職する立場だったとして、社内サーバに残したファイルは“消してもいいもの”なのか? この問いの重さを、今こそ考えるべきだろう。


今後、企業や社員が気をつけるべきことは?

企業に求められるリスク管理とは?

本件から導き出される企業の対応策は明確だ。まずは“退職時に何を消してはいけないか”というルールの明文化。そして、データの帰属が企業にあるという法的前提を社員に周知徹底すること。再発を防ぐには、技術的な保護と教育的な理解が不可欠だ。

社員が誤解しやすい“データの私物感”とは?

現代の業務では、社員一人ひとりが「半ば自作に近い感覚」で成果物を扱っている。それゆえ、退職時に“私物感覚”でファイルを削除することも珍しくない。だが、企業の共有資産であるという意識を持たなければ、法的リスクに直面する可能性がある──この判決は、働くすべての人への警鐘だ。


🧠 削除は「裏切り」なのか?

私は言葉を選ばない。

退職日に、かつての職場のファイルを自動で削除する──その行為は、外から見れば“裏切り”に映るかもしれない。だが、それは単なる報復だったのか? それとも、誤解と疲弊の産物だったのか。

もしそのファイルに、自分のすべてが詰まっていたとしたら? 誰のために、何のために作ったのかが曖昧になったまま、去るしかなかったとしたら?

企業はいつも「成果を渡せ」と言う。だが、その“成果”は、誰の心にとっての何なのか。どこまでが雇用の義務で、どこからが人の信念なのか──境界線は、いつも静かに崩れていく。


❓ FAQ

Q1. 削除されたファイルは復元できなかったのか?
A. 被告はバッチファイルで削除を行ったため、完全復旧は困難だったとされる。

Q2. リモート接続での削除は違法か?
A. 社外からの削除であっても、業務用データであれば不法行為に該当する。

Q3. 家族への賠償責任はどこまで認められる?
A. 身元保証契約の有無によって、家族(保証人)にも連帯責任が及ぶことがある。

Q4. 今後の情報セキュリティ対策のヒントは?
A. 最終出社日=アクセス停止日とし、全社員に明示的な通知と確認を義務づけるべきである。

✅ 記事見出し▶ 要点
退職日に自動ファイル削除を実行被告は退職日に「cleaner.bat」で232フォルダを削除した。
削除データは業務成果で企業資産と判断地裁は共有サーバ上のデータを企業の法的利益として認定した。
損害額の大半は認められず請求された給与分などは否定され、復旧費用相当の577万円のみが認容された。
今後の情報管理体制に課題アクセス制限・引継管理・教育体制の整備が企業に強く求められている。

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