中国発SHEINが米国向け製品の価格を最大377%引き上げた。背景には、デミニミス撤廃による関税強化がある。美容・健康、ホーム用品、玩具など幅広い分野で価格上昇が確認され、米国消費者への負担が急拡大。SHEIN・Temuなど中国系通販企業は、生き残りをかけた体制変更に乗り出している。私たちはこの「国境の壁」とどう向き合うべきか。
SHEIN米国で
最大377%値上げ
広告の下に記事の続きがあります。ペコリ
中国発のファッション通販大手SHEIN(シーイン)が、米国向け製品で最大377%という異例の値上げに踏み切った。
背景にあるのは、米国による中国製品への関税引き上げ──。
新たな貿易障壁が、米国消費者の日常にどのような影響を及ぼすのか。
今回の動きは、単なる一企業の問題にとどまらず、米中経済摩擦の新たな局面を示唆している。
✅ 項目 | ✅ 要点 |
---|---|
SHEINの値上げ理由 | 中国からの輸入関税引き上げに対応 |
値上げ幅 | 商品によって最大377% |
影響商品 | 美容・健康・ホーム用品・玩具など |
今後の焦点 | 米国消費者行動とSHEIN・Temuの戦略 |
関税強化と値上げの現実。その背景と未来を掘り下げます。
SHEINはなぜ米国で大幅値上げしたのか?
新たな関税措置とは何か?
トランプ政権下で発表された新たな対中関税強化策は、
「デミニミス(免税基準800ドル以下)」ルールの撤廃を含んでいる。
これにより、800ドル以下の少額商品でも関税が課されることになり、
SHEINやTemuといった中国発オンライン通販は、最大120%の関税に直面する。
米国政府はこれを「国内産業保護のため」と説明しているが、
実質的には消費者負担を大きく引き上げる政策である。
デミニミス撤廃が与えた衝撃
「デミニミス撤廃」は、特に低価格帯商品に依存してきた企業に深刻な打撃を与えている。
SHEINでは、25日を境に米国向け価格の大幅改定が行われ、
美容・健康カテゴリーで平均51%、ホーム・玩具で30%超の値上げが発生した。
中でも、キッチンタオル10枚セットが377%もの値上げとなったケースが象徴的だ。
この動きは、単なる価格調整ではなく、企業の存続戦略そのものを左右する問題へと発展している。
デミニミスとは何か?
デミニミス(De Minimis)とは、国際郵便において一定金額以下の商品に関税を免除する制度を指す。
米国では800ドル以下の商品が対象となり、SHEINやTemuにとって大きなメリットとなっていた。
この免除撤廃により、個別小口輸入にまで厳しい課税が課せられることになり、
企業側の「価格転嫁」が不可避となった。
800ドル基準撤廃 → 小口取引でも関税対象化
中国・香港製品のみ除外対象に設定
消費者直撃型の影響(平均値上げ幅30~50%)
値上げ幅と対象商品はどう変わった?
美容・健康・玩具など値上げ実態
ブルームバーグの集計によれば、4月25日を中心に、SHEINの米国向け商品価格は一斉に跳ね上がった。
美容・健康分野では、上位100品目の平均価格が前日比で51%上昇。
一部商品は2倍以上の値上げを記録している。
玩具やホーム用品でも同様に、平均30%以上の値上げが見られた。
キッチンタオル10枚セットに至っては、前日の3.7倍、実に377%もの急騰を示し、
消費者に与えるインパクトの大きさを象徴している。
このような極端な価格改定は、消費者の購入意欲を大きく左右する可能性がある。
婦人服・ホーム用品の具体例
婦人服カテゴリーでは比較的緩やかな値上げにとどまったが、
それでも8%超の上昇が確認されている。
ブルームバーグのデータによると、
人気婦人服商品では、4月22日から順次価格が引き上げられ、
100品目の平均価格が8.68ドルから9.06ドルへ、約4%上昇した。
また、キッチン用品、玩具などの日用品カテゴリーでは、
販売中止に追い込まれた商品も複数確認されており、
米国市場向け戦略の練り直しが急務となっている。
✅ 項目 | ✅ 米国 | ✅ 英国 |
---|---|---|
値上げ実施日 | 4月24日~26日集中 | 変化なし |
平均値上げ率 | 約10%(一部377%) | ほぼ据え置き |
販売中止商品数 | 50品目中7品目中止 | 中止ゼロ |
消費者反応 | SNS上で値上げ批判広がる | 目立った反応なし |
今後のSHEIN・Temu・市場動向は?
SHEINとTemuの生き残り戦略
SHEINは関税対策として、2025年2月以降、中国サプライヤーに対して
ベトナムへの生産拠点移設を促す動きを加速させた。
また、米国法人の強化、現地倉庫経由での物流体制整備も進めている。
Temuも同様に、中国国内の生産から「ハーフカストディ方式」(工場から直接米国倉庫へ直送)へとシフトし、
オンライン運営に特化する体制へ移行中だ。
このような「脱中国依存」の動きは、
米国市場における競争力維持のための苦肉の策でもある。
米国消費者への影響と広がり
今回の値上げは、米国の消費者にとって明確な負担増となる。
特に低価格帯の商品を好む層では、購入控えや他サイトへの移行が進む可能性が高い。
一方、AmazonやWalmartといった米国内流通大手は、
「国内製造・国内流通品」へのシフトを積極化しており、
消費者ニーズの受け皿として存在感を高めている。
この流れは、今後のEC市場の勢力図を大きく塗り替える起点となるかもしれない。
関税強化施策の流れ
米国関税引き上げ(5月2日施行予定) ↓
SHEIN・Temuが値上げ対応(4月末) ↓
米国消費者への価格転嫁拡大 ↓
国内流通企業へのシフト加速 ↓
EC市場の再編・競争激化
ここからは、単なる「価格の問題」ではなく、
国境を越えた消費行動、サプライチェーン、政治経済の交錯──。
そのダイナミズムに目を向けていきましょう。
「消費の自由」と「国家の壁」が、静かに衝突している。
かつて、オンライン通販は「国境を越える魔法」だった。
だが、今──
魔法は関税という現実に打ち砕かれ、消費者は再び「国境」の存在を思い知る。
安さに酔い、自由を疑わなかった私たちは、
これから何を選び、どこへ向かうのだろうか。